ガラクタ♂♀狂想曲
「あの…、すみません。これは面接のうちに入るのでしょうか?」
自己紹介をした程度で、面接という面接をした覚えなどないのだし、これもその一環なのかと思わずにはいられない。だけどキョトンと目を丸くしたオーナー。
「あはは、違いますよ」
笑うと、もっと若く見えた。
「確かにいまのでは驚かれるのも無理のない話ですね。これはわたしの誘い方が不躾でした。申し訳ございません。実は一緒に行くはずだった従業員が、本日急な別件で身動き取れなくなりまして。無理にお誘いはしておりませんので構いませんよ」
携帯を取り出して時間を確認すれば、もうすでに9時半を回っていた。
着信はまだない。
もし先にデンちゃんが戻ってきたら、連絡がほしいとも送っている。
「どのお店もそろそろ閉店時間が迫っておりますので、わたしはもう向かいます。お出口までお送りいたしましょう」
そして入ってきたドアを開け、どうぞと言って道を開けてくれる。
「ありがとうございます。それであの…」
「どうされました?」
「この近くですか? その、偵察にいくお店は」
「車で10分ほどです」
そしてクイッと腕を伸ばし、腕時計に目をやった。
「———もうこんな時間。いくらなんでも、これでは数軒回るだなんてお店にも失礼ですね。よく抜けていると知人にも言われます」
そしてスタスタと私の前を歩いていき、スタッフルームにいた従業員や厨房にも頭を突っ込み声を掛けていく。ここでの立場は一番上のはずなのに、気配り上手というか、腰が低いというか。
「失礼いたしました津川さん。お出口までお送りすると言ったのに、足止めしてしまいまして」
「いえ大丈夫です」
どちらかと言うと無表情のオーナー。
言葉遣いは丁寧で腰も低いけれど、どこか淡々と話す。背丈はデンちゃんより、少し低いかな。前を歩く背中を見つめ、そんなことを考える。
「本来はこちらがスタッフ専用の出入り口なのですが、無用心なので鍵は閉めてあります。ですから津川さんもお店からの出入りになります」
こちらを振り返らず、斜め前の入口を指差した。
「明日、今日のように入り口からそのままこちらへ入ってきてください」
「わかりました」
そしてそのままオーナーの背中へついて歩き、ホールを抜け店を出る。