ガラクタ♂♀狂想曲
「音楽でもかけましょう。津川さんはお好みのアーティストや、系統などおありでしょうか?」
「——いえ、とくには」
「それでは、わたしのほうで勝手に選ばさせていただきますね」
「……はい。いえ、あのォ」
「なんでしょうか?」
デンちゃんと私が知り合いだと気づいたはずのオーナーなのに、なぜ一言もそのことに触れないのだろう。
「いかがなされましたか?」
信号に引っかかり車が停まる。そして私のほうへ少し顔を向けたオーナー。
「——あの、なぜ…、なにも聞いてこられないのですか?」
するとふっと息を吐き出したオーナー。
「それではお聞きしましょう。なぜ津川さんは、あの場ですっと気配を消してしまわれたのですか?」
思わず黙り込んでしまう。気配を消したというより、そうしてしまった。ただ驚いてしまっただけで、そんな気などなかった。
「あいつは、全く気づいておりませんでしたね」
そしてオーナーが選んだものなのか、ゆっくりと静かで落ち着いた感じの音楽が流れはじめた。
「まあ無理もないでしょう。わたしとショコちゃんが一緒にいるだなんて、そうそう思いつかないはずです」
それから私のほうを向き、口を横に結んで眉間を少し広げる。どこかおどけるような表情をしてみせたオーナー。
ふたたび車が動き出す
静かな音楽が空間を埋めていくかのように、しっとりと流れた。
息を吐き出した私。
ようやく頭が動きはじめた。
「——意地悪なこと、なさるんですね」
オーナーは意味がわからないとアピールするためなのか、前を向いたたまま少し首を傾げてみせる。
「わたしが意地悪、ですか?」
「そうです」
「なぜそう思うのですか?」
「私があそこで降りたくないことを察してくださったのに、わざわざ声を掛けるだなんて」
「ああ、そのことですか」
妙に納得し、頷いたオーナー。