ガラクタ♂♀狂想曲
「ですがもう津川さんはうちのスタッフです。あのまま通り過ぎることもできましたが、それではこれから毎日のようにわたしは津川さんを騙すことになってしまいます」
そしてこちらへチラッと顔を向けた。
「わたしは人を騙すのが、苦手なほうです」
ふたたび車が減速しはじめ、赤信号が目に飛び込んでくる。
「まあ苦手というよりは、面倒なだけです」
そういったオーナーはハンドルへ圧し掛かるように前のめりになり、空を見上げた。
「降りそうですね」
私のほうへ顔を向ける。
「どうされました? ご気分でも害されましたか?」
「———いえ」
なんだか私が何を言っても通用しないような気がした。息を吐き出し座り直す。そしてコホンとひとつ咳払い。ここはもう、恥を捨てて聞いてみよう。
「あの、オーナー」
「なんでしょう?」
「じつは取り入ってお聞きしたいことがあるのですが、応えていただけますか」
「どういったお話かにもよりますが、わたしが判る範囲でなら、お応えすることができます」
「さっき、あのデ——、愁と一緒にいた女性は、オーナーもご存知ですか?」
すると返答に少し間を空けたオーナー。
「ええ、はい。何度か、お店でお見かけした程度です」
応えてくれないのかと思いきや、顔を前へ向け口を開いた。
「…そうですか」
だけどなんだか私、どうやらさっきの人が瑠美であっても、そうじゃなかったとしても、受けた衝撃が大きいようだ。
「おそらく津川さんのほうが、彼女のことをよくご存知ではないでしょうか」
「……」
それではやはり、あれが瑠美。
そうか。
そうか。