ガラクタ♂♀狂想曲
「だけどどうして、こんな下っ端の私だけじゃなくスタッフみんなにまで敬語なのですか? もう少し偉そうにしてもいいかと思うのですが」
だってさっきデンちゃんへ向けていた言葉や表情とは全然違う。
「それはこの業界、まだはじめたばかりなので、わからないことも多い。みなさんと同じ立場だからです」
「——なんだか凄いですね。正直言って、ちょっと驚きました」
するとわたしのほうへ顔を向け、すっと目を細めたオーナー。
「要するにわたしは、まだ生意気なクソガキってことです」
「……そうなんですか?」
「そうですよ。わたしは親のスネかじりと言われても仕方がないと思っておりますが、功績まで父の力だと言われるのは我慢がならないだけですから」
いやはや、ほんと。
お見それいたしました。
「なんだか今日は、人生のいい勉強になった気分です。ありがとうございました」
するとオーナーは前方へ目を向けたまま、少しのあいだ黙り込む。
「——津川さんは、あいつと反応がよく似ていますね」
ぼそりと。そう呟くようにそう言ったオーナー。
「あいつ…、ですか」
「ああ、愁です」
あ。
あれ、いま?
だけど気のせいか。
愁という名前を呼んだとき、いままでにないほど柔らかい表情をしたような気がした。
「そろそろです。準備されたほうがよろしいかと」
「はい?」
「さきほどからお待ちかねの電話が、そろそろ鳴るはずです」
「そんなはずは…」
だってデンちゃんがあそこからいますぐ出たとしても、きっと駅まで送ってもらっている私のほうが早く戻れるはず。この時間に掛けてくることなど、ないと思うけれど——。
そして手にした携帯を眺めた。