ガラクタ♂♀狂想曲
「そうそう。愁が仕事のために作った携帯には、津川さんのアドレスだけしか登録がありませんでした。本当に驚きましたよ、あれには」
やっぱりデンちゃんの話をするときは、どこか楽しそうに見えるオーナー。よほど可愛がっていたのか、それとも気が合うのか。
だけどデンちゃんからは、オーナーの源氏名であるコーキという名を一度も聞いたことがない。
そもそもホストの話自体、デンちゃんの口からは、ほとんど聞くこともないのだけれど。
「さ、着きました」
車が車道脇へ停まった。
ガチャリとノックが上がり、手際よく車から降りたオーナーがスタスタと助手席のほうへ回りこんでくる。
「どうぞ」
なんと、わざわざドアを開けてくれた。
「すみません。ありがとうございます」
「それでは津川さん。明日6時ごろ、お待ちしております」
「……はい」
「失礼いたします」
そしてすっと頭を下げ、運転席のほうへ戻っていく。
バタンと運転席のドアが閉まるころ、私の手の中にあった携帯がぶるぶると震えはじめた。
《着信中: デンちゃん》