ガラクタ♂♀狂想曲
成らずモノ
"さきほどからお待ちかねの電話が、そろそろ鳴るはずです"
車へ乗り込んだオーナーは短くクラクションを鳴らし、すぐその場から走り去ってしまった。そして本当にデンちゃんから着信している携帯に目を落とす。どうして、わかったのだろう。
『おーい、もしもしショコちゃーん?』
「——あ、ごめんごめん。今から乗るし、あと20分ぐらいかな」
財布から小銭を取り出し、切符を買いながらそう応えた。
『俺は1時間ぐらいかなー』
「あ、そうなの?」
『んーっと。1時間は掛からないと思う』
電話の内容はドンキに寄って帰るので、何かいるものがあれば——、というような、他愛もないものだった。
「あ、電車来た」
『じゃ、帰ったらまた教えて』
「わかった。じゃ切るね」
電車に揺られながら、今日一日のことを頭の中で整理していく。急な面接にデンちゃんも驚いてはいたけれど、バイトを探していたことは少し前に伝えてあった。
デンちゃんは、瑠美に呼び出され会っていた。
私はバイトの面接を受けた。
そして、そこのオーナーとデンちゃんが、過去同じところで働いていてて——。
だけどヘンだ。
あんなに仲良さげに話していた2人なのに、デンちゃんはオーナーの新しい仕事は知らないようだった。
"——津川さんは、あいつと反応がよく似ていますね"
"そうそう。愁が仕事のために作った携帯には、津川さんのアドレスだけしか登録がありませんでした。本当に驚きましたよ、あれには"
なのにオーナーは、デンちゃんの行動をまるで知り尽くしているかのような雰囲気だ。そして、忘れてはならない瑠美。
だけどぼんやりとすれば、今日瑠美を見たことがすっかり頭から抜けそうになる。それほど内容の濃い日。
「はあ…」
思わず口から溜息が漏れ出てしまう。いったい何からデンちゃんへ話せばいいのだろう。
頭の中が整理つかないまま、時間は過ぎていく。
そうこうするうちに、ガチャガチャとドアへ鍵を差し込む音が聞こえてきた。