ガラクタ♂♀狂想曲

「こんばんは津川さん」

「——!!?」

「お早いですね。とてもいい心がけだと思います」


予想外に後ろから現れたオーナーは、今日もピシッとスーツ姿。


「こんばんは。あの、少しだけ仕事前にお時間いただきたいのですが、いまって大丈夫ですか?」

「ええ、どうぞ。中へ入ってください」


そしてドアを開け、私を先に中へ促すオーナー。初っ端から、この堅苦しい雰囲気に飲み込まれてしまいそう。


「失礼します」


少し頭を下げてから、そそくさとオーナーの前を通り過ぎた。後ろ手でパタンと静かにドアの閉まる音がしたと同時に振り返る。


「あの、オーナー」

「どうされました?」

「ここがオーナーのお店だということを、愁くんには知らせていないのですか?」


すると意外と長い時間、返答を待たされる。


「そうですね。内緒にするつもりでした」

「…つもり、ってなぜです? 私から見てオーナーのことをとても慕っているように感じましたし、それにオーナーも」

「津川さん」


私の言葉を制し、オーナーが口を挟んできた。


「誤解されてもらっては困ります。わたしは、あそこから離れたくて知らせなかったのです。理由があってのことです」


そう言ったオーナーの言葉には、ほんの少しだけれど——。これまで聞いたどの言葉より、なんだか気迫が篭っているかのように感じた。


「…すみません」


思わず私の口から謝罪の言葉が出てしまったほどだ。


「津川さんが謝ることはないですよ。いまは事情が変わってしましたからね。わたしのほうこそ、失礼いたしました」


そして口を横に結ぶオーナー。
これってデンちゃんのクセとよく似ている気がした。


「さて、それではどういたしましょうか。このままですと、バレてしまいますよね?」


私が黙り込んでいると、オーナーはそう言って少し首を捻った。

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