ガラクタ♂♀狂想曲

「そのほうがわたしにとっても、おそらく津川さんにとっても都合がいいはずでしょう?」


やっぱりヘン。オーナーにどんな利点が?
離れたかったのなら、いますぐにでも私を不採用にすればいいことだ。その上で、この提案なら理解も出来る。


「これを遂行するにあたり、津川さんの協力が必要です」

「私の協力、ですか?」

「はい、そうです。それにわたしが察するに、津川さんご自身がもうすでに進めていらっしゃる」

「……どういうことです?」

「昨夜の話をなにひとつ、愁に伝えていないとお見受けいたしましたが」


思わず息を吐き出した。


「———わかりました。オーナーの指示に従います」


昨日、私が瑠美を見たことも、なかったことに。

けれど、やはり疑問が残る。
なぜオーナーの特権を活かして、私を不採用にしないのだろう。


「ありがとうございます」


なんだろう、この気持ちの悪さ。モヤモヤする。


「もしデンちゃんがここへ来て、オーナーと鉢合わせしても、私の前でコーキさんの名前を呼ぶことがあったとしても、私は何も知らないフリをすればいいわけですね」


確かめるように、そう言った。


「———デンちゃん…、ですか」


するとオーナーはそう言って、これまで私には向けたことのないような柔らかい表情で目を細め、クスッと笑う。


「デンちゃん」


そしてもう一度。


「愁のことを、デンちゃんと呼んでいらっしゃるのですか?」


話の内容ともかくとして、デンちゃんという呼び名に反応したオーナーは、本名ではなく愁と呼んでいる。けれど馴染みのない愁という名を、私が呼ぶのもヘンに思えてそう呼んだのだ。


「……はい」

「それは驚きました」

「そう呼んでほしいと、言われたもので」


そういえば以前、瑠美もそれで驚いていたとデンちゃんが言っていたけれど。驚くようなことなのだろうか。

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