ガラクタ♂♀狂想曲
そんなまさか、だけど思わず口にせずにはいられなかった。
「さすがですね。冴えていらっしゃる」
「……冗談じゃなく、本気で?」
「ええ、そうです。ですから津川さんが、羨ましいですね」
「……」
なんだか口の中が酷くカラカラに乾いてしまって、うまく唾が飲み込めず。
かと言って、状況に見合った言葉も出てこない。そのまま私は固まってしまう。
「本当に羨ましいですよ。なぜならわたしの場合は、愁と顔を合わせるのが嫌になったのですから。毎日頭から離れず、気が狂いそうになったもので」
これは、もしかして私の反応を試して楽しんでいるのだろうか。オーナーは落ち着き払った、いたって普通の表情だし。
あまりにも淡々としすぎている気がする。
だけど、だからこそ、より重く感じてしまう部分もあった。
デンちゃんの話をしているときのオーナーは、私から見ても明らかにどの表情とも違って見えたのは事実だ。それが無意識なのか、そうじゃないのかは昨日今日会ったばかりの私には判別することは出来ない。
オーナーは私から視線を外してしまった。
この沈黙が、いやに長く感じてしまう。酸素もどこか薄い。私の頭は飽和状態だ。
というのもオーナーには、パッと注目を浴びてしまうほどのオーラがあるからだ。
それはぼやぼやしていると、女性に囲まれてしまうんじゃないかってほど。6年ものあいだ、入れ替わりの早いホスト業界で身を凌いでこれたのだから、女性からモテるのは当然ではある。
なのにデンちゃん。
だけどデンちゃん。