ガラクタ♂♀狂想曲
「はあ、わかりました。これからはなるべく固有名詞を使わないよう努力します」
「あはは、頑張ってください」
そして足を踏み入れた。
店内は混み合っている。レジは人で溢れているし、ホールに目をやってもそれは同じ。いま入ってきた新規の客にまで、手が回らないだろうというのが見てわかるほどのバタつきだ。
「これは、ホールのいい勉強になりますね」
そのさまを眺めながらオーナーが少し肩を竦め、目を細める。
「ここのスタッフなら、こういう場合どのように動くのがベストなんでしょうかね?」
「——さあ?」
「それでは客としては、どうするのがベストだと思います?」
目をくりくりっと動かせ、私を少し覗き込んだ。この顔って、なんか——。気のせいかな。
「どうされましたか?」
「いえ、べつに。私ならこういう場合、さりげなく店員に視線を送りますね」
そして私はホールのほうへ目を向けた。
そこで伝票を持ったひとりの見慣れた顔が目に飛び込んでくる。その人は、私をじっと見ていた。
「——デンちゃん?」
なぜ、ここに。
だけどデンちゃんは私と視線が交わると、さらりと目を逸らしてしまった。
あれ。
「……あいつ」
するとオーナーが、どこか唸るように声を落としてそういった。
「なにやってんだよ、マジで」
まるでここにデンちゃんがいるのを知っていたかのような口ぶりに、思わずオーナーを見上げる。