ガラクタ♂♀狂想曲
「だけど彼女、妊娠してるのに。デンちゃんのほうこそ、こんな遅くまで外に連れ出していたらダメじゃない」
平静を装っているつもりだけれど、ひとことずつ噛み締めていけば、虚しく惨めな気持ちになってくる。べつにこんなこと言いたいわけじゃないのに。
「——ごめんショコちゃん」
意味がわからない。
それに私をオーナーへ紹介しようとしてたのなら、なぜこんなふうになるの。
「ほら隼人」
するとデンちゃんの本名を呼んだオーナー。
「津川さんは俺がちゃんと送り届けるから。お前は頭冷やして、もう少し自分のことを考えろ」
デンちゃんはしばらく黙り込んだあと、なにかを悟ったかのようにオーナーへ向かってぺこりと頭を下げた。
そして身を返し本当に出て行ってしまう。どんどん遠ざかっていくその後姿を眺めていると、ゆるゆると私の視界が滲んできた。
「———津川さん」
「酷いです」
「酷いのはあいつ。それを納得したから、出て行っただけ」
だけどデンちゃんは、こっちを一度も振り返らなかった。
「こんなことに何の意味が。一体オーナーは、何が目的だったんですか」
喉から搾り出すので、声が震えてしまう。せっかくデンちゃんは戻ってきてくれたのに、瑠美が待っているところへふたたび送り出してしまった。
もううちへは来ない気がする。そう思ったら、途端に涙が溢れ出してしまった。
「こんな形で…」
自分の意思じゃないところで勝手に動いて、そして離れてしまうだなんて。
「大丈夫。あいつは津川さんのところへ戻ってくる」
また断言。
一体なんなの。
なにがわかるの。
「悔しいけれどわかるんですよ。あいつのことは手に取るように」
そして煙草を手に取ったオーナーは、じらせるようにゆっくりとした動作で火をつけ、深く吸い込んだ。