ガラクタ♂♀狂想曲

「だけど彼女、妊娠してるのに。デンちゃんのほうこそ、こんな遅くまで外に連れ出していたらダメじゃない」


平静を装っているつもりだけれど、ひとことずつ噛み締めていけば、虚しく惨めな気持ちになってくる。べつにこんなこと言いたいわけじゃないのに。


「——ごめんショコちゃん」


意味がわからない。
それに私をオーナーへ紹介しようとしてたのなら、なぜこんなふうになるの。


「ほら隼人」


するとデンちゃんの本名を呼んだオーナー。


「津川さんは俺がちゃんと送り届けるから。お前は頭冷やして、もう少し自分のことを考えろ」


デンちゃんはしばらく黙り込んだあと、なにかを悟ったかのようにオーナーへ向かってぺこりと頭を下げた。

そして身を返し本当に出て行ってしまう。どんどん遠ざかっていくその後姿を眺めていると、ゆるゆると私の視界が滲んできた。


「———津川さん」

「酷いです」

「酷いのはあいつ。それを納得したから、出て行っただけ」


だけどデンちゃんは、こっちを一度も振り返らなかった。


「こんなことに何の意味が。一体オーナーは、何が目的だったんですか」


喉から搾り出すので、声が震えてしまう。せっかくデンちゃんは戻ってきてくれたのに、瑠美が待っているところへふたたび送り出してしまった。

もううちへは来ない気がする。そう思ったら、途端に涙が溢れ出してしまった。


「こんな形で…」


自分の意思じゃないところで勝手に動いて、そして離れてしまうだなんて。


「大丈夫。あいつは津川さんのところへ戻ってくる」


また断言。
一体なんなの。

なにがわかるの。


「悔しいけれどわかるんですよ。あいつのことは手に取るように」


そして煙草を手に取ったオーナーは、じらせるようにゆっくりとした動作で火をつけ、深く吸い込んだ。

< 192 / 333 >

この作品をシェア

pagetop