ガラクタ♂♀狂想曲
「いいですか津川さん」
そこで言葉をとめたオーナー。その口が開くのを待っているせいで時間を長く感じてしまうのか、それとも本当に長いのか。だけどこうして黙っている時間が長いと、涙もそれに合わせるかのように溢れ出てくる。
「普段——…、というか愁のあいつは、自身を引っ込め人格を創るのが巧く、頭の回転も早くて、ずる賢い。人の心に付け入る能力にかなり長けています。しかしさきほど、あんなふうにわたしへ楯突き、取り乱したあいつをはじめて見ました。他にも理由をいくつもあげることはできますが、いまはあれだけで充分でしょう」
それはオーナーが感じただけで、確固たるものにはならない。
「津川さんには辛い思いをさせてしまったかもしれないですが、それは一過性にすぎません」
「———どういう、ことですか」
「このまま野放しにしておけば、自分の子でもない、瑠美のお腹にいる子どもの父親にだってなりかねませんよ。それでもいいのですか? 手遅れになってしまう前に、それを阻止しただけです」
そこまで話すと気が済んだのか、黙り込んでしまったオーナー。すっかり冷えてしまったサンドイッチをひとくち頬張り、煙草へ手を伸ばす。
「……そんなこと」
そんな、バカな
私の頭の中は、放心状態。
それからどれくらいのあいだ、そのままぼんやりしていただろうか。
私のほうの携帯が突然鳴りはじめた。
着信を見ればデンちゃん。
「も、もしもしっ」
平静を装いたくとも、やはり取り乱し携帯を耳に押し合てた。
『もしもし』
だけど声を聞いた瞬間、言葉を失ってしまう。耳元から聞こえてきたのは、女の声だった。
『——あなた、このあいだ電話に出た子でしょ?』
瑠美だ。
『もしもし?』
「———はい、そうです」
『あのね、お願いがあるの。隼人くんのこと、これ以上責めないであげてくれる? そっとしておいてあげてよ』
呆気に取られ過ぎて、言葉なんか出ない。
オーナーに目をやればテーブルに頬杖つき、どこか退屈そうに人差し指でトントンと頬を叩きながら、そんな私の様子を黙って眺めていた。