ガラクタ♂♀狂想曲

『まだあなたは、きっと私より若いのだし。隼人くんじゃなくても、これから他にもたくさん出会いがあると思うの』

「——あの、デンちゃんが好きなのですか」

『失いたくは、ないわ』


失いたくない…、て。脱力感を引き出すにも、ほどがあるって話。

返事をする気にもなれず、ただ息を吐き出した。ちらりと視線を上げれば、オーナーは煙草の煙を吐き出す。大して煙たくもないけれど、目を細めた。優雅なそのさまを見ていると、なんだか気が抜けて欠伸が出そうだ。


『隼人くんがあなたにはすべて話したと言っていたから、詳しい事情は聞いていると思うけれど、』

「デンちゃんは何してるんですか、いま」


大体なぜ、デンちゃんの携帯から瑠美が。


『——ねえ。もう、そっとしておいてあげて』

「出してくださいよ。まさかデンちゃんに内緒で、勝手にこんなことをしてるのですか?」

『お願いだから、これ以上は掻き回さないでくれるかな』

「——は?」


開いた口が塞がらない。目をやったオーナーと視線が交わる。すると詮索するようだった鋭い目が一瞬で和らぎ、のんびりとした煙を吐き出した。

それから通りかかった店員に声をかけ、コーヒーのお代わりを注文。お皿の上のサンドイッチは、いつの間にかなくなっていた。

目の前にあった私のカップにもコーヒーのお代わりが注がれ、そして立ちのぼる湯気。

それを眺めながら、ゆっくり息を吐き出した。


「デンちゃんは、そこにいないのですね?」


少し気持ちを落ち着かせるためにも息を吐きつつカップを手に取った私は、湯気立つそれに口をつけた。

< 194 / 333 >

この作品をシェア

pagetop