ガラクタ♂♀狂想曲
「なあ、瑠美ちゃん」
突然口が開いた。瑠美のことを、瑠美ちゃんと呼んだオーナー。
「ああ、俺だ」
どうやらオーナーが発した短い言葉だけで、瑠美は誰かすぐにわかったらしい。"俺だ"と応えたオーナーは、少し息を吐き出しカップへ口をつけた。
「わかったから。だけど今日は、もうその辺にしとけ」
なに。
「違う。そうじゃないだろ。俺は誰の肩も持ってない。ただ偶然が重なっただけで、」
そのまましばらく沈黙が続く。オーナーが、ちらりと私を見た。
「だからそんなの、俺はべつにどっちでもいいんだって。ただ俺は——、それは瑠美ちゃんがよく知ってるだろ。このままでいいわけない。だから瑠美ちゃんもよく考えて。———それで、隼人は?」
そして目の上辺りをトントン。見るからに、どんどん機嫌が悪くなっていく。
いつもなにがあっても余裕しゃくしゃくっぽいのに、こんなふうに少し取り乱したようにも見えるオーナーの姿は新鮮。
「あのさあ、」
そこで言葉を飲みこみ、眉を寄せて固まったように黙り込んだオーナーは、なにも言わず携帯を耳から離した。そして目を閉じ、こめかみの辺りをぐりぐりと指先で揉む。
「——失礼いたしました」
そして大袈裟なほど大きな溜息をついた。
「お察知の通り、いまの電話は隼人に内緒で掛けていたようで突然切れました」
「…そうですか」
「かなり驚きになられたのでは?」
「——ええ、まあ」
そしてオーナーから携帯を手渡された私。
聞いてみたいことはあるけれど、イラついたように煙草へ手を伸ばしたオーナーを目の当たりにして、なんだかタイミングが取りにくい。
「わたしと彼女が出会ったのは、津川さんと隼人のきっかけとよく似たものです。それ以上は何もお答え出来ません」
聞かれたくなかった内容だったのか、オーナーに先手を取られてしまった。
以前は瑠美のことが好きだったのだろうか。どうなんだろう。
「——彼女に対して、なにか特別な感情を持ったことは一度もありませんよ。いわば同士です」
そして煙草に火をつけたオーナーは、窓の外へ目を向ける。細い煙を吐き出した。