ガラクタ♂♀狂想曲
「津川さん。あなたは自信を持ってドシンと構えてればいいと思います。いま起こっているこの状態は、津川さんが隼人の前に現れて微妙にバランスが崩れてしまっただけなんですから」
「——私が、なにか関係してるのですか」
そんな気など、さらさらない。
煙をぼんやり吐き出したあと、口を横に結ぶオーナー。
「ようやくこれで、正常にことが動きはじめただけでしょう」
「これがですか」
「ええ、そうです。あと、あまり彼女を悪く思わないでやってください。あれは望まれてないお腹の子の命を、ただ守りたい一心でやってしまっているだけのことです」
なにも答えないと言ったオーナーだけれど、自分に関与しないことへは口を割っていく気がする。
そして、もうひとつ気づいたことがあった。この茶番劇にも見える一連の流れは、すべてデンちゃんのためだ。だから以前いっていたのは、やはりオーナーの本心なのではないだろうか。
「オーナー。私のことって、抱けますか?」
「………どうしたのですか急に。それはどういう意味ですか?」
「女性を抱けますか?」
黙ってじっと私の目を見るオーナー。
突然に思えるかもしれない、私の言葉。
「なんだか参りましたね」
「答えになっていません」
以前は冗談だといったけれど、デンちゃんのことをとても大切に思っているのは確かだ。
これまでみんながそれぞれの胸に、一方通行の気持ちを大事に抱え込んでいただけなのではないだろうか。オーナーがさっき言ったように、だからこそうまくバランスがとれていたんだと思えた。
「津川さんが、わたしのことを好きになってから、それは考えてみましょうか」
「なによ偉そうに」
「——それは、わたしのことです?」
「ええ、そうです。なんだかひとり大人な振りして、カッコつけてるようにしか見えませんよ」
言葉にしてしまうと単純で簡単なひとことなのに、人は恋をするとなにもかもを複雑にしてしまう。
まっすぐ好きと言えたのは、いつのことまでだろう。なんとなくそんなことを思う。とても簡単な言葉なのに、自分の気持ちを相手に押し付けるのがおこがましいと感じてしまうのはなぜ。
それは恋をしてるから。