ガラクタ♂♀狂想曲
変わりモノ
いつものように階段を上り、そしていつものようにドアへ鍵を差し込み、それを回す。
部屋の中は真っ暗だ。
だけどようやくここに、まだデンちゃんの気配が残っている、この部屋に戻ってきた。時計に目をやれば、とっくに日付が変わっている。
「……疲れた」
息を吐き出しながら首を回し持っていたバッグをどさどさっと床へ置けば、ようやく解放された気分になった。デンちゃんのいない部屋。
だけどオーナーはデンちゃんが私のところへ戻ってくるといった。今回はどうかな。
また以前のように携帯を誰かに拾ってもらう作戦でも練って、なにもなかったかのように戻ってくるのだろうか。
そういえばあのとき、デンちゃんは携帯を棄てるつもりでコンビニのコピー機の上に置いてきたといっていた。もし拾われなかったり、ショップや警察に届けられていたら、いまはなかったかもしれないのだ。今回はどうするのだろう。
あんなふうに私へ突っかかってくるデンちゃんは、はじめて見た。
「あ」
ふと目に飛び込んできたのは、テーブルの上へ無造作に置いてあるデンちゃんのキーケース。また忘れていったみたい。
なるほどデンちゃんの気配が強いわけだと妙に納得。今日のはちょっと、心に染みる。
だけどよくよく見渡せば、まだ灯りもつけていないこの状態でも、デンちゃんのものがたくさん目に入ってくる。次いつ来るかわからなかったときは、忘れて帰った煙草をゴミ箱へ捨てたこともあったのに。
そして、私はそのままドシンと構えてればいいといったオーナー。
ずっとふたりだけの世界にいたせいで気づかなかったけれど、今回のことで、瑠美だけでなく私もデンちゃんを動かす歯車の一部になっていることを認識した。
「!!?」
あ。
「———デン…、ちゃん?」
真っ暗なこの部屋で、膝を抱え座り込んでいる人影。普通なら幽霊でも見たんじゃないかと腰を抜かすかもしれない、だけど見慣れた人影だ。
傍まで寄って、顔を寄せてみた。ピクリとも動かないデンちゃん。