ガラクタ♂♀狂想曲
「——うわ、やべ。マジ遅刻するっ」
「頑張ってー」
しかし元気だ。
あれからデンちゃんは死んだように1時間ほど寝て、起きれば即行でシャワーを浴び、そのままバタバタと大学へ向かった。1限から講義らしい。
私だったら休んでいたかも、と思えるほど酔っていたのに、シャワーを浴びたらスッキリした顔をしていたのが単純に凄い。だからこそ、続くのだろうけど。
「さて」
忙しないデンちゃんを送り出したあと、アルバイトの時間まで就職雑誌を手に取りネット検索。だけどそれももう諦めに近い。こんなことでは駄目だと奮起しては玉砕な日々。どこでもいいから、雇ってくれるところがあるならお願いしたいぐらいだ。
そのまま結局、何ひとつ決まらないまま、気づけばバイトの時間。漏れ出る溜息も深刻だ。
そして足取りも重くバイト先へ向かうと、ホールでオーナーが女の人と同席して談笑していた。珍しいこともあるものだ。普段ほとんどホールに出ないオーナーが客として座っている姿が珍しいのもあるけれど、案外普通のカップルに見えた。
そんなオーナーと少しだけ視線が交わったので、軽く会釈してからスタッフルームへ向かう。
「——あ、津川さん」
制服に着替え終わり、更衣室を出たところでオーナーに呼び止められた。どうやら話があるそうだ。
「お話って、なんでしょうか?」
「なにか俺に聞きたいことがあるのでは、と思いまして」
「——いえ?」
そういえば、あの日を境に、私に対して自らのことを"わたし"と言わなくなったオーナー。口調は丁寧だったり、そうでもなかったり。
「言ってください。いまなら誰も聞いておりませんので」
なんだろう。
今日、仕事が終われば3人で会うことにはなっているけれど、なんかその話題をこの場で持ち出すのも、いまさらって感じだ。
「ないです」
「——そうですか。ならべつに構わないです。お時間取っていただき、ありがとうございました」
そして小さく咳払いをしたオーナーはパソコンのモニターへ目を移し、キーボードを小気味よくカチカチと鳴らす。
「あの、お話って?」
「俺にも、女の1人や2人います」
ああ、なんだ。
さっきのことか。