ガラクタ♂♀狂想曲
楽しそうなデンちゃんだけれど、オーナーも楽しそうだ。見たところ顔には全然出ていないけれど、取り巻く空気が違って見える。デンちゃんをいじるときは、実に楽しそうなオーナー。
私がいくらつまらなそうにしててもお構いナシなのに、デンちゃんが暇をもてあますようなことはない。オーナーが水面下で、地味にデンちゃんの興味あるほうへ話題を持っていく。
そんな2人の会話を耳に傾けながら、デンちゃんが飲んでいたお酒を少し口に含んでみた。
キツい。だけど意外とクセはないような——。
「なにか違うの入れましょうか?」
私の行動に気づいたオーナーが、グラスを持って声を掛けてきた。
グラスを持つ指が長い。ピアノが上手そうだ。そういえばリビングにピアノもある。
「——オーナーって、ピアノ弾けるんですか?」
「え? ああ、ピアノですか?」
そして私の視線の先を追ったオーナー。
「人並み程度には弾けますけれど、ピアノはこいつのほうがかなり上手いですよ」
指差したのは——、
「デンちゃん?」
うそ!
「デンちゃん、ピアノ弾けるの?」
「えー、少しだけ」
そんなの初耳だ。だけどこういう話題はピアノがないとしないから普通かもしれない。
ほどよく酔って緩んだ頭にも、がつんと衝撃がはしる。いや、酔っているからこそかもしれない。
「弾いて!」
デンちゃんの腕を掴み、勢いよく揺らした。だけど頭がグランっとその揺れについてくるデンちゃんは、欠伸をしながら目をこする。
「聞きたい!」
「えー…」
「弾いて。すっごい聞きたい!!!」
「———なんか酔ってるから無理だし」
なんだか少し、ブスッした顔でそういう。
「弾けるだろ。俺も聞きたい」
そして連行されるかのように、無理矢理ピアノの前に座らされたデンちゃん。だけど鍵盤の上に手を置いたまま、すごく難しい顔をして眉を寄せる。