ガラクタ♂♀狂想曲
「——無理です。それに久しぶり過ぎるし、酔ってるし。———楽譜もないし」
「酔ってても、楽譜なくても、いけるだろ」
「でもショコちゃんの前で弾くんだったら、ベストの状態のときのをちゃんと聴いてもらいたいんです」
そしてポロロンっといくつか旋律を奏で頭を垂れた。
ちょっとキュン。
「むり。むりむりむり、むーーーりーーー! 鍵盤見てたら、頭ぐらぐらしてきた。だからコーキさんが弾いてくださいよー…」
「——わーかったよ。ほらどけ」
わかりすぎるほどに無理をアピールするデンちゃんに代わってオーナーがピアノの前に座る。
「なに弾こうか」
持っていたグラスの液体を一気に飲み干してからそれを脇に置き、なんだか手馴れた感じで鍵盤の上へ手を乗せた。一瞬訪れた静寂に、少し息を飲んだ。
「———向こうで座ってて。そんな近くで見られると緊張する」
「でしょ?」
「いいからほら、さっさと向こう行けよ」
頭にヘアバンドしてるせいで髪の毛が若干逆立っているし、少しおちゃらけてふざけたような格好だけれど——。そしてどこかで聞いたことの感じのする、耳に優しい曲がゆっくりとはじまった。
私とデンちゃんはそれに耳を傾けつつ、ソファーへ身を寄せ合うように腰を下ろす。
「——ねえデンちゃん」
私の肩へちょこんと頭を乗せているデンちゃん。見れば目を閉じている。
「デンちゃん」
「……んー」
「これ、なんて曲?」
肩に掛かっていた重みが、すっと消えた。頭を上げたデンちゃんは、オーナーへ目を向けながら口を開く。
「ショパン。——別れの曲」
「聞いたことある」
「うん。結構有名と思う」
「別れの曲か」
デンちゃんは、また私の肩へ頭を乗せた。