ガラクタ♂♀狂想曲
「なんか寂しい感じだね」
「どうかな。だってこの曲名はショパンがつけたものじゃなくて、日本人が勝手につけたものだし」
「——へえ」
デンちゃんは相変わらず目を閉じたまま、だけどいまオーナーが弾いている別れの曲のことについて少し説明してくれた。
"別れの曲"という曲名は、昭和初期に日本で公開された映画の邦題から取ったものらしい。それはショパンの伝記を元にした、フランス映画。内容は知らないといったデンちゃんだけど、悲恋ではあるらしかった。
「しっかりショコちゃん」
「なにを?」
「俺のほうが知ってる」
そう言って、ぐりぐりと頭を移動させてくるデンちゃん。
「イタタ」
「しー」
もう。
「だけどそんな話まで知らないよ、普通は」
「そお?」
「だって私、ピアノなんて習ったことないし」
「俺も習ってないけど」
「うそ?」
「ほんと。母親がピアノの先生だっただけ」
「……ふーん」
お母さんのこういう話、はじめて聞いた。
そのまましばらく優しい旋律にゆったりとまどろんでいると、激しい睡魔が襲ってくる。
「おい」
すると突然オーナーの声。思わず体がびくっと反応してしまった。
「携帯鳴ってるぞ」
その声にテーブルへ視線を移せば、デンちゃんの携帯が光っていた。
「デンちゃん携帯鳴ってるよ」
声を掛けてみるも、返事はない。それどころか、かすかな寝息が聞こえてきた。