ガラクタ♂♀狂想曲
「なんだかオーナーって、いろいろ大変なんですね」
「——どういう意味です?」
「お見合いとか。なんとなく、いろいろ」
あまり意識していなかったのもあるけれど、私なんかよりずっと、たくさんの悩みを抱えていそう。要するにお見合いの相手には、最初から、その気がないのだ。
「ああー…、はい」
妙に納得したオーナーはまだ手に煙草を持っているのに新しい煙草へ手を伸ばし、それでトントンとテーブルを叩いた。そしてなにかを考えごとでもしているのか、そのまま黙り込む。
こういう沈黙は、それなりに気まずい。なのでコホンと思わず咳払い。
「——体裁とは、なんだと思います?」
「はい?」
「俺が、そこまで女に興味がないことを知っている津川さんなのに、あの女性がお見合い相手だと聞いても、まったく驚かれなかったので、なんだか気になりまして」
「いえ。オーナーのことですし、そういう付き合いというかなんというか。なんかそう言うのも、あるのかなって漠然と思っただけです」
「今回は体裁もあって仕方なく引き受けてみましたが、あれも疲れますね。俺はべつに誰でもいいですけれど、そういうわけにもいかないでしょ」
「——結構キツいこといいますね」
するとカランと氷を鳴らせ、グラスをあけたオーナー。
「そこでいま思いついたのですけれど、津川さんに取り入ってお願いがあるのですが」
「——急になんです?」
改まって、いったい何。
「無理は承知ですが、お伺いします」
「——なんでしょう」
するとくいっと座りなおし、姿勢を正したオーナーが口を開いた。
「俺と結婚を前提にして、つきあってることにしてくれませんか?」
「——は!?」
口へ運び傾けていたグラスから、ビールを吹き出してしまった。