ガラクタ♂♀狂想曲
「オーナーって、性格悪かったんですね」
「おそらくこれは自己愛の成れの果てでしょう。いわゆるナルシシズムってやつですかね?」
自己愛。
ナリシシズム。
冗談のつもりなのか本気で言ったのか。返答に困る。掴みどころがないオーナー。
「あいつ、隼人と俺は似てますから、その点は気をつけたほうがいいんです」
ふっと小さく笑ったオーナー。私はふたたび溜息。
「隼人とは——」
そしてデンちゃんとはピアノを通じて瑠美から紹介されたと言ったオーナー。こっちに出てきたデンちゃんは、ときどきここでピアノを弾いていたそうだ。
「デンちゃんのピアノ。聴きたかったです」
「俺より上手いって言ったのは事実です。かなりの腕前ですから」
「そうなんですね」
「まあ、いつくるかこないのかもわからない奴のベストの日を、このままダラダラ待つのもいいかもしれませんね」
「私がオーナーと結婚を前提にお付き合いするフリをすれば、デンちゃんのベストの日は来ますか?」
「来ると思いますよ。それが隼人の未来なら。行動を起こすことで、それが早くくるかもしれないというだけの話です」
何かと共通点が多かったという2人。
そしてデンちゃんを見ていると、まるで幼かったころの自分を見ているようだと言ったオーナー。
「——私にも、キツいお酒ください」
「飲みますか?」
「飲まないと、頭がおかしくなりそうです」
目の前にあったデンちゃんの空になったグラスを突き出せば、オーナーは新しいグラスを取り出してそこへ酒を注ぎ込んでくれた。
「これは苦手な方でも、飲みやすいと思います」
「——ありがとうございます」
するとカチンとグラスを合わせてきたオーナー。
「どうぞ。上手い酒です」
私はそれを少しだけ口に含み、まるで個体を飲み込むかのように喉を通す。きついお酒を飲んだとき特有の、鼻から抜けるアルコールに思わず眉を寄せた。
オーナーは黙って煙草を吸っている。静かな時間。