ガラクタ♂♀狂想曲
「——ン」
そして静寂を突き破るかのように、デンちゃんの短い呻き声。ピクリと眉を動かせたオーナーは、そちらへ顔を向け煙草の煙をふわりと吐き出した。
「起きましたか?」
オーナーに声を掛けた。
私からは振り返らないと見えない位置。ちょうど死角にあるデンちゃんの姿。
「寝てます」
「——そうですか」
「そろそろ、起こしてみましょうか」
すると電源が切れていたかと思えるほど沈黙し続けていたデンちゃんの携帯が、まるでタイミングを計っていたかのように震えだした。思わず顔を見合わせてしまった私たち。
「津川さん」
「——はい」
「よく見ててください。わたし個人にしてみれば、これが最善なのですけれど」
なんのことを指しているのかわからず首を傾げれば、すっと腰を上げて席を立ったオーナー。そしてそのままデンちゃんの元へ歩み寄っていき、傍らへ腰を下ろし顔を覗きこむ。
「何を、するんですか?」
「——いまが狙い目でしょ」
「は?」
今度はいったい何。
クスッと笑ったオーナーは、デンちゃんへゆっくりと顔を寄せていった。身を乗り出す私。
「隼人」
そう囁くようにデンちゃんの名前を一度だけ呼び、髪を撫でるオーナー。デンちゃんは小さく唸って、それに応えた。
「——ほら起きろ」
そしてオーナーは、デンちゃんの顔へギリギリまで接近。その光景に思わず息を飲んでしまった瞬間、すっと傾いたオーナーの頭。
デンちゃんに唇を重ね合わせた。
ちょ。
ごくり、と喉が鳴って耳がキーン。
「知ってるでしょ? 隼人の寝起きは、襲い目なんです。ただし後で激しく後悔しますが」
どこかいたずらっ子のように口を結び、目をクリっと見開いたオーナー。飲みすぎか夢——で、あってほしいのですが。