ガラクタ♂♀狂想曲

「……何の話です?」


デンちゃんは呑気な欠伸を交えながらオーナに向かってそう言う。


「デンちゃん」

「んー?」

「帰ろ?」

「——ん、わかった。だけどその前に、瑠美へ電話入れてみる」


いろいろ目の当たりにしたせいもあって、デンちゃんのその言葉にどっと力が抜けてしまう。オーナーへ目をやれば、少し首を傾げて肩を上げた。そしてソファーから身を起こし、私の元へ歩み寄ってくるデンちゃん。


「ちょっと待ってて」


そう言って私の頬をそっと撫でたあと、テーブルに置いてあった携帯を手に取った。


「オーナー」

「はい」

「——さっきのお話、かなり前向きに検討してみようと思います」


酔っているわけではない、と思う。頭はいたって正常だ。だからこそ、いまハッキリと決めなかったのだし。


「もしもし、ごめん。着信に、いま気付いた」


だけど携帯を耳に押し当て応答しているデンちゃんを見れば、そんな気持ちは膨らむばかり。


「そうそうコーキさんとこで——…、あ、うん」


そしてちらりとオーナーへ視線を向けたデンちゃんは、その視線を私のほうまで移動させた。


「こんな時間に電話とかさ。まだ寝てなかった?」


オーナーはそんなデンちゃんを尻目に、まるで盗み聞きなどしていないという素振りをしながらグラスへ酒を注ぐ。


「ああ、うん。オッケー、わかった。朝、そっち寄るし」


そして壁に掛かる時計へ目をやったデンちゃんは、携帯を切った。いまは3時半過ぎ。

デンちゃんの朝は、いつなのだろう。


「瑠美ちゃん、なんだって?」

「なんか大変だそうです」


それから私の頭へ手を乗せたデンちゃんが、顔を覗きこんできた。

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