ガラクタ♂♀狂想曲
臆病モノ
ポロロンと優しい音色。
カランと鳴った氷。
「——よかったのですか?」
まさか私を置いて行ってしまうとは。
いま私、男の人と2人っきりなのに。一旦家に帰るという選択肢は思い浮かばなかった? それより瑠美が大事なの?
「オーナーの提案は、デンちゃんには効力もなさそうです」
「そうですかね」
グラスがカランと鳴った。
「なにかリクエストはありますか」
「オーナから見て、私はデンちゃんの何だと思います? やっぱりこれって私はフラれているのでしょうか?」
「難しい質問ですね」
「自分ではよくわかりませんがフラれた気分なんです」
「なら、そうかもしれません。だけどこれは価値観の問題ですよね。津川さんが、あいつを送り出したのですから」
鍵盤の上に手を乗せたオーナー。心地の良いメロディーがはじまる。
「慰めてほしいですか?」
「……いえ」
「寂しそうですが」
「——本来、人は寂しい生き物です」
少し呆れたように短く息を吐き出したオーナーは、大きく伸びをする。
「しかし、なんでもそれに当てはめてしまうのは、どうかと思いますけれど」
「——だけどこれは一種、私の定義なんです」
「定義……、定義、ね」
どこか上の空で、その言葉を繰り返したオーナー。
「ウジウジと卑屈にいじけるような真似だけはしたくないっていうのが、私の目指すところだったりします」
「——そうですか」