ガラクタ♂♀狂想曲
人は寂しいから人を求め、やがて恋をする。ふとした瞬間、温もりや人肌が恋しいと感じてしまうのは、きっと寂しいからで——。
もっともらしいことを言って、自分を正論化。――帰ろう。
「始発って、何時かご存知ですか?」
時計に目をやれば4時を回っていた。デンちゃんが言ったように、そろそろ街も電車も起きだす時間。
「始発…、知りません」
「そりゃそうですよね。だけどこの辺だと、4時過ぎには出ているはずなんですよ」
自らのグラスへ手酌で酒を入れようとすれば、いつのまにそこにいたのかオーナーの手がすっと伸びてきた。
「女性の手酌は、見るに耐えられませんよ。お入れいたします」
「いらないです。飲みたいだけ自分で入れるんですから」
すると頭上から、ため息が降ってきた。
「俺には、津川さんがいまイジけているようにしか見えないのですけれど」
「——なんだか、よくわからなくなってきました」
「そうですか。それは、残念です」
残念そうにも見えない顔で、さらりとそう言った。その態度と言い方や、この状況も、なにもかもが無性に虚しくて、だんだん悔しくなってくる。
いったい私の、なにがイケなかったの。
「ドンと構えてろと、最初に言ったのはオーナーじゃないですか」
「——ドンと…、はい、確かにそう言いました。ですが俺から言わせていただけば、さきほどの津川さんを表した言葉ではないです。つまり、そうですね…」
そこで言葉を止め一呼吸置いたオーナーは、グラスに入った氷を指でツンツンと沈めた。そして濡れた指を眺めながら口を開く。
「言わばこれも価値観の違いか、それとも男女の違いなのでしょうか。いずれにせよ俺から見たさっきの津川さんは、ただ怯えていたようにしか見えませんでした。なので新鮮ではあります」
私はオーナーから提示された選択の道を、デンちゃんの答えに賭けてみただけだ。こうなることを全く予想していなかったわけではないはず。なのにこの有様で。