ガラクタ♂♀狂想曲

「今日はご馳走様でした」

「いえ」

「お見苦しいところを見せてしまって、なんだか申し訳なかったです。今日のこと、出来れば忘れてください」

「それでは、なにもなかったことにしろと?」

「なかったですし実際」

「そうですね」


ふっと笑ったオーナーはグラスを傾ける。


「……では、失礼いたします」


そしてコートを羽織り、鞄を手に取った。


「駅までお送りいたしましょう」

「大丈夫です」


結構飲んだわりに思ったより酔っていない。足元もしっかりしていた。


「まだ外は暗いです。それに、なにかあっては、」

「デンちゃんが——、ですか?」

「まあ、そういうことですね」

「ひとりで大丈夫ですよ。それにオーナー、そんな格好で外に出るんですか?」

「——ああ確かに。それもそうですね」


改めて自分の格好を眺めたオーナーは、そう言って少し笑う。そういえば電話のデンちゃんは、駅まで向かう私の心配などしてくれなかった。

こっそり息を吐き出す。


「またいじけました? それとも拗ねてるんですか?」

「……違いますよ」

「ここを出て左に歩けば大通りに出ます。交差点目指して歩けばすぐ駅ですが、それでも10分近くかかります。お気をつけて」


そしてピアノの音が響きだす。
そんなオーナーに向かって頭を下げ部屋を出た。慣れない廊下をキョロつきながら歩きエレベーターへと乗り込む。
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