ガラクタ♂♀狂想曲
「おい」
「なんだお前?」
「お前こそなんだ? 俺の女から早く手を放せウンコ野郎。ションベン臭せえのがうつるだろ?」
オーナーだった。男の胸倉を掴みつつピアスに指を掛けたオーナーはぐいぐいそれを引っ張る。男は尻尾を巻いたように上目遣いでオーナーを見ていた。
「携帯も返せよ」
「……どうぞ」
そして、いそいそと差し出すように私の手に携帯を返してくる。
「さて」
まるで汚いものでも触れるかのように、男の首っこをひっ捕まえたオーナー。
「失せろ」
車道に向かって放り出せば、そこでケッと道路に唾を吐きだす男。その姿を見逃さず駆け寄ったオーナーは、男の背中へ一発蹴りをお見舞いした。
醜い唸りをあげ、前のめりにつんのめった男は鈍い音を立て車道に体を打ちつけ転がり、逃げるように立ち去っていく。
目の前で繰り広げられていた光景にポカンとしている自分に気付いた。デンちゃんほどではないけれど、オーナーもキレたら怖そう。キレなくても普段から怖いものはあるけれど。
「——あ、ありがとうございます」
「頭がグラグラします。もう年ですから、無理は禁物ですね」
よく言う。それじゃなくても、いつものようにスーツを着ているわけじゃないから年より若く見えた。
「あの、オーナー」
「はい?」
ついさっきまでヘアバンドしていたので、かなり乱れている髪も少し笑えた。
「意地悪なこと、言ってもいいですか?」
「なんでしょう」
「オーナーが男性で、本当によかったです」
「言いますねえ。ですが俺の女なんていう台詞はそうそう口にする機会もないでしょうし、なかなか楽しかったです。いい酔い醒ましになりましたし」
「あはは」
あ。
手の中の携帯を見て、ディスプレイがいつもと違うの状態なのに気づいた。通話中と表示されている。思わず、切ってしまった。