ガラクタ♂♀狂想曲
息を吐き出し、車窓に目を移す。まもなくS駅に到着すると言うアナウンス。そしてホームに立つ、デンちゃんの姿が見えた。
ドア付近に立っていた私にすぐ気づいたデンちゃんは、ちょこんと頭を下げ、小さく手を上げる。
「——寒い」
開口一番そう言って、自らの身体を抱きこむように電車の中へ乗り込んできたデンちゃんはダウンを着ていた。不思議に思ったけれど、デンちゃんは自分の家へ帰ったのだから、そりゃそうだと納得。
両手をポケットに突っ込んだまま、私の顔を覗きこんでくるデンちゃんの鼻が赤い。それがまた、より一層寒そうに見えた。
「ガクブルすぎ。——多分いま俺さ、鼻水垂れてると思うんだけど、どう?」
確かによく見れば、少し鼻の穴周りがみずみずしくテカッているデンちゃん。でも垂れてはいない。
だけどその言い方がなんだか妙に面白くて吹き出してしまった。
「さっきから顔面の感覚がなくて。急にあったかいとこ入ったから鼻の栓が緩む。人間カイロほしい」
そしてポケットに手を突っ込んだまま、ダウンの前を器用に開けたデンちゃん。
私はそのままデンちゃんのダウンの中に人間カイロとしてすっぽり包まれてしまった。
「ショコちゃんも、あったかい?」
「うん」
少しの息でも、私の髪を揺らすほどの至近距離。だけど電車の中だ。
「うーー、しかし寒かった」
何も聞いてこないつもりなのだろうか。それとも私が言い出すのを待ってるのか。もしかすると着信に気づいていなかったのかもしれない。
「俺もしこの電車にショコちゃんが乗ってなかったら、帰るつもりだった」
「——うん」
どっちの家に帰るつもりだったのか聞こうと思ったけれど、それは飲み込んだ。
「今日ショコちゃん絶対に俺のこと、最悪って思ったに違いないはずなのに…、ありがとう」
そう言ったデンちゃんは、閉まっているドアへ背中をトンとつけた。変わらず私はデンちゃんの腕の中なので、バランスを崩してそのまま胸に顔をぶつけてしまう。するとデンちゃんの腕に、ぎゅっと力が篭った。
「俺、最悪」
「……デンちゃん?」
「ショコちゃんって、俺のことが男でよかったと思ってくれたりする?」
あの電話。やっぱりデンちゃんは聞いていたんだね。