ガラクタ♂♀狂想曲
「——ごめんショコちゃん。やっぱり言って」
「やめた」
「え?」
「言うのやめた」
デンちゃんが女だったら、いいのに。それならきっと、誰も悲しまない。
なんとなく、そう思った。
「——ショコちゃん」
「ん?」
顔を上げてみれば、私の顔を覗きこむデンちゃんの口は閉じたまま。しばらくそのまま、じっと見つめ合う私たち。
なにも言い出す素振りがないデンちゃんは、すっと目を細めた。
「……デンちゃん?」
「ん」
「どうしたの?」
不思議に思ってそう訊くと、ちょこんと首を傾げたデンちゃん。
そのまま顔がゆっくり近づき、私の下唇に軽く吸い付いて素早くそれを離した。一瞬ふざけているのかと思ったけれど、顔を見れば笑っていない。
「ここ電車だよ」
早朝でガラガラの電車だからといって、誰も乗っていないわけじゃない。この車両にも何人か乗っている。
「わかってる」
「人がいるのに」
「知ってる」
「……」
「もう一回、これで最後」
そしてふたたび、私の唇がデンちゃんの温かい口の中へ吸い込まれた。
これはなんのキスだろう。頭の隅では考える。
だけど嫌な気分にはならず、むしろ、こうしてスキンシップを取ってくれたデンちゃんのおかげで満たされた気分になってしまう。つきあう男がダメンズをループするのは、私のこういうところが原因なのだろうと思えた。