ガラクタ♂♀狂想曲



"ショコちゃんの前で弾くんだったら、ベストの状態のときのをちゃんと聴いてもらいたい″

"いつくるかこないのかもわからない奴のベストの日を、このままダラダラ待つのもいいかもしれませんね"



ピアノはかなりの腕前とオーナーがいっていた。以前は何度もあそこへピアノを弾きに行っていたのだろうと思う。だけど弾けなくなってしまったデンちゃん。


「ねえデンちゃん? 私にもいつか、ピアノ聴かせてくれる?」

「———聴きたい?」

「うん、すごく」


すこし間を空けたデンちゃん。振り返りその姿を見れば、口を横に結んで軽く頷いた。


「ほんと?」

「練習して、完璧になったら、そのときにでも…」

「うん、約束ね」


この先に幸せな未来が待ち望んでいると思えないのは、自分でも逃げているだけ。一緒に少しずつ前へ踏み出したいと確かにそう思ったはずなのに、ただその場で足踏みしていただけのように思う。


「デンちゃんのピアノ聴けるの楽しみ」

「……あのさショコちゃん」

「だけど楽しみは長いほうがいいな。前に私が言ったことは綺麗に忘れて、その代わりにこっちの約束を覚えてて」


"私がデンちゃんのことを好きだってこと、忘れないで"


ひとまず、これは撤回しよう。
あのときはすんなりと言えたのに尻込みしてしまったのか、あれから私も口に出来なくなった言葉。

そして手元の鍋をかき混ぜながら、デンちゃんの言葉を背中で待った。



わ!



「——あっつ」


急に噴き出したおかゆに、慌てて火を消す。だらだらと溢れ出したおかゆで、コンロ周りが大変なことになってしまった。手を見れば少し赤い。

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