ガラクタ♂♀狂想曲

いい言葉を思いついて、もっとカッコよく決めるつもりだったのに。なんていうか、しまりが悪い。

あれがサヨナラの言葉になってしまうわけではないのに、手元まで見る余裕がなかった。


「ボーっとしない」


その声に振り返れば、すぐ後ろにデンちゃんがいた。


「——びっくり」

「冷やしたほうがいい」

「え?」


そのまま腕を掴まれた私は、まるで連行されるみたいに水道の前まで連れて行かれ、そして勢いよく出した水の中へ手を突っ込んだデンちゃん。辺りに水しぶきがたくさん飛んだ。


「出しすぎだよ」


水の勢いを少し弱め、デンちゃんを見上げる。


「大丈夫?」

「うん。だけど、ごめん。おかゆが少し減っちゃった」


すると穏やかな表情で笑うデンちゃん。それはときどき見せる、かなり大人びた表情でドキッとしてしまう。


「——もっと焦らないと。ショコちゃんのんびり屋さんすぎ。痕が残ったらどうするんだよ」

「大袈裟だよ」


するとデンちゃんは、なぜか不思議そうな顔で私を覗き込む。


「——ねえ。どうして、そんな顔するの?」

「俺?」

「ほかに誰?」

「あー…、確かに。俺の頭がヘンかも」


そしてすっと目を細め笑ったデンちゃんは、ゆっくり息を吐き出した。


「抱きしめてもいい?」

「…わざわざ聞くの?」


我ながら可愛くないと思う。だけどデンちゃんは小さく笑った。


「——ドキドキ」

「もーふざけないで。それにそれは熱があるからでしょ。デンちゃんは、いま病人なんだから」


ドキドキしているのは、私のほう。だってデンちゃんがいま、頭の中でなにを考えているのかわからない。いまぼんやりとしているように見えるのは、熱のせいなのか、それともほかのことなのか。

< 254 / 333 >

この作品をシェア

pagetop