ガラクタ♂♀狂想曲
いい言葉を思いついて、もっとカッコよく決めるつもりだったのに。なんていうか、しまりが悪い。
あれがサヨナラの言葉になってしまうわけではないのに、手元まで見る余裕がなかった。
「ボーっとしない」
その声に振り返れば、すぐ後ろにデンちゃんがいた。
「——びっくり」
「冷やしたほうがいい」
「え?」
そのまま腕を掴まれた私は、まるで連行されるみたいに水道の前まで連れて行かれ、そして勢いよく出した水の中へ手を突っ込んだデンちゃん。辺りに水しぶきがたくさん飛んだ。
「出しすぎだよ」
水の勢いを少し弱め、デンちゃんを見上げる。
「大丈夫?」
「うん。だけど、ごめん。おかゆが少し減っちゃった」
すると穏やかな表情で笑うデンちゃん。それはときどき見せる、かなり大人びた表情でドキッとしてしまう。
「——もっと焦らないと。ショコちゃんのんびり屋さんすぎ。痕が残ったらどうするんだよ」
「大袈裟だよ」
するとデンちゃんは、なぜか不思議そうな顔で私を覗き込む。
「——ねえ。どうして、そんな顔するの?」
「俺?」
「ほかに誰?」
「あー…、確かに。俺の頭がヘンかも」
そしてすっと目を細め笑ったデンちゃんは、ゆっくり息を吐き出した。
「抱きしめてもいい?」
「…わざわざ聞くの?」
我ながら可愛くないと思う。だけどデンちゃんは小さく笑った。
「——ドキドキ」
「もーふざけないで。それにそれは熱があるからでしょ。デンちゃんは、いま病人なんだから」
ドキドキしているのは、私のほう。だってデンちゃんがいま、頭の中でなにを考えているのかわからない。いまぼんやりとしているように見えるのは、熱のせいなのか、それともほかのことなのか。