ガラクタ♂♀狂想曲
「ショコちゃん」
そっと私を抱き寄せた。
「——ピアノなんて弾こうと思えば、本当はいまからだって弾ける。ただ弾きたくないだけ。弾こうとも思えない」
「うん」
「だけど弾くつもりもないって言ったら…、ショコちゃんはどうする? それでも俺がいつか弾きたいと思ったときのために約束する?」
「デンちゃん」
どうしよう。
「そんな日なんて、いくら待っても来ないかもしれないのに?」
「デンちゃん」
どうしよう。
デンちゃんの本当に心臓がドキドキしている。
私を求めるような態度をしたとしても、確固たる簡単な言葉を口にしようとしないデンちゃん。
ただ私を繋ぎとめておくだけのつもりなら、"好き"とか"愛してる"だとか、そんな浮き足立つような台詞は口先だけで気安く言えそうなものなのに、それをしない。
「——その気になったら聴かせて。だけど聴かせてくれるなら、完璧じゃないとイヤ」
するとデンちゃんの腕に、ギュッと力が篭った。
そして頭をうな垂れるようにゆっくり息を吐き出し、そっと身体を引き離す。
「ショコちゃん」
「うん」
吸い込まれそうな瞳で私をじっと見つめ、それから頬を撫でたデンちゃんは視線を逸らせてしまう。
「心がザワザワ煩くて邪魔。ピアノは心の声が出ちゃうから……。怖い、弾くのが。すごく」
「デンちゃん」
「——俺に、失望した?」
「どうしてそう思うの。だって私、そんなこと思ってないのに」
「ダメだよショコちゃん。普通はこんなにいい加減で、口先だけの男に失望しないと」
「……デンちゃん。どうしてそんなこと言うの?」
口先だけなら、もっと容易い言葉はたくさんあるはずだ。私が、ただの馬鹿なだけのだろうか。