ガラクタ♂♀狂想曲
「デンちゃん!」
「ごめんショコちゃん。だけど俺が急いだところで、なんにもならない」
「デンちゃん!!!」
「きっともうお腹の子は、助からない」
「早くデンちゃん」
「大丈夫だから」
「なにが大丈夫なのデンちゃん! 早く立ってよ」
とにかくデンちゃんを連れて外へ出る。
もたもたしているデンちゃんを抱え込んだり、背中を押したり、やっとのことで大通りまで出てきた。
そしてタクシーをつかまえ、さっきデンちゃんが言っていた病院名と簡単な説明を加える。
「お願いします」
ひたすら、なにかを願う。なにを願っているのかわからないのに、ただ願う。デンちゃんは、ぼんやり窓の外を見ていた。
「着きましたよ」
「ほらデンちゃん降りるよ」
「……」
「早く!」
受付で事情を説明し、病室へ向かった私たち。
そしてベッドに横たわる瑠美を見た。その横にオーナー。
どうやら瑠美は寝ているようだ。オーナーが人差し指をすっと口元へあてた。デンちゃんは瑠美の元へ歩み寄っていき、そしてそっと頬へ手を伸ばす。
静かな時間。誰もが、まるで息を潜めている。
「———自分を守ることも、人を守ることも、どっちも難しいんだな、隼人」
ふいにオーナーがデ口を開いた。
「コーキさん、俺」
「だけど医者が言うに、これは誰にも止められなかったって」
オーナーの言葉に瞳を閉じたデンちゃんは、少し息を吐き出してから病室を出ていった。そのあとを追いかけようとした私。だけど腕をオーナーに掴まれてしまう。
「水田さん、隼人の親父さんが外にいらしてる。だから津川さん、少しここで待って」
デンちゃんのお父さんが。
「一時は俺もこうなることを願いはしましたが、実際この場に居合わすとかなり複雑な気分です」
かなり声を落としてそう言ったオーナー。そしてまるでなにごともなかったように眠る瑠美へ目をやった。