ガラクタ♂♀狂想曲

「津川さん。さきほどは、舌を巻くほど格好良かったです。こいつの親父の職業を知っての言葉ですか?」

「——はい」

「そうですか。こいつにも聞かせてあげたかったですね。俺はいくらこいつのためだと思っても、あんなことは言えません」

「オーナー」

「のちほどお話しいたします。ここでの俺たちは部外者なんだということを頭に入れてください」

「……」

「さあ。行きましょう」


デンちゃんを少し背負いなおしてから、歩き出した。

なんとか後部座席にデンちゃんを座らせ、時計に目をやれば8時前。一番忙しい時間帯なのに、わざわざ駆けつけたオーナー。

そんなオーナーとバックミラーの中で目が合う。


「まるで大きい子どもですね」

「なんだかデンちゃん、このまま消えちゃいそうです」

「——いわば冬眠しているようなものです。早く春が来れば良いですね」


冬眠って。
そしてアクセルが踏み込まれ、周りの景色がゆっくりと静かに流れ出す。


「聞いてもいいですか」

「はい」

「オーナーはデンちゃんがこうなったことも、最初から決まっていたことだと思いますか?」

「決まっていたことですよ。おそらく。遅かれ早かれ。コマはコマなりに、それをいつ始動させるかの微々たる違いだったと思います。そう思えば、一気に済んでよかったじゃないですか」


これが遅かれ早かれ、いつかは通らなければならない決まった道だったと——。


「…デンちゃん」


瞳を閉じているデンちゃんの頭を、そっと撫でた。ふわっと香るデンちゃんの香り。

エンジンの唸る音と振動が微かに響く。


デンちゃんの頭を撫でていると、さっきまでの張り詰めた空気が嘘のようだ。いまとても穏やかに感じる。優しい時間が流れていような気がした。

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