ガラクタ♂♀狂想曲

「本当にデンちゃんのこと、詳しいですよね」


それを考えても、なんだか胸が痛んだ。そのまま黙り込んでしまう。


「どこかの国の統計で男三兄弟の末っ子は俺みたいになるケースが多いと出たそうです。なのでこれも、きっと生まれついて決まっていたことなんだと。いまはそう思ってますよ。もし津川さんが店のアルバイトではなく、俺の妹だったのなら、何かが変わってたかもしれませんね」


クスリと笑う。
私がオーナーの妹、ね。
それなら確かに変わっていたかもと思える。なるほど、すべてが生まれるときから、もう決まっていたのかもしれない。

だけど私がアルバイトを探していなければ? あの店を選んでいなかったら? これがオーナーの言った、与えられたものの中でコマが選択できる自由なのだろうか。

私があの店を選ばなくとも、どの道を選んでいたとしても、遅かれ早かれいずれは同じことが起こっているだろうと考えるオーナー。

それなら、あのとき私がデンちゃんを通行人Aにしていたとしても、デンちゃんより先にオーナーと出会ったとしても、いまこうなっているとでもいうのか。


「オーナー」

「はい」

「クソガキは、いま私たちを見て楽しんでいますかね」

「それは、どうでしょう。子どものことですから、もう忘れているかもしれないですよ」

「そのクソガキは、素敵なゴールを作ってくれているのでしょうか?」

「さあ?」

「なんですか、それ」


思わず吹き出してしまう。


「——さきほど隼人が津川さんへ話していた親父さんの言葉。あれは隼人の将来を案じての言葉だったのだと——…、俺は信じます。親鳥が雛を巣から突き落とすように」


そして呟くように、そう言ったオーナー。ふたたび車内が静まり返る。

すると寝ていると思っていたデンちゃんが手を握ってきた。驚いて顔を覗き込むも目は閉じたままだ。だけど握り返せば、それに応えるように握り返してくる。

指を絡め、そして撫でるように動いたデンちゃんの手。なにかの合図のようで、そうでもないその動き。


「津川さん?」

「へ?」

「ここを右折でよかったですか?」

「——あ、すいません。はい、そうです」


いつから起きていたのだろう。

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