ガラクタ♂♀狂想曲

「———子犬のワルツです」

「はあ?」


子犬のワルツ。タイトルなら聞いたことがあるけれど、どんな曲だったかは出てこない。


「なんだそれ」


だけどオーナーは笑いを堪えるようにそう言って口元へ手をやり、デンちゃんはそれを見てしてやったり顔。少し嬉しそうに頬を緩ませた。


「だってなんか俺みたいでしょ」

「よくわかってんじゃん」

「おかげさまで」


なにが面白いのか全くわからなかったけれど、いままで表情がなくなっていたデンちゃんの頬が、笑うとぷくっと盛り上がっているのを見ると私もつられて頬が緩んでしまう。


「ショコちゃん」

「ん」

「子犬のワルツ、知ってる?」


私の顔を覗き込んでくるデンちゃん。だけど期待には応えられそうもない。


「——名前ぐらいなら、聞いたことがあるけれど」

「これもショパンの曲の中では、かなり有名だけど?」

「……聴いたらわかると思う」

「しっかり、ショコちゃん」


そしてデンちゃんは、自分の尻尾を追い掛けグルグル回っている子犬の様子を見て作った曲が、子犬のワルツなんだと説明してくれた。


「それとショコちゃん。ゼウスって知ってる? ギリシャ神話なんだけど。この話は?」


耳打ちするように、こっそりそう言うデンちゃん。


「ゼウス…」


ギリシャ神話? なんだろう突然。

確かゼウスには、ふたりの兄がいる。だけど最権力者は末弟のゼウスで神と呼ばれている男だったはず。

光輝な鎧を身に纏うゼウス。

あ…。たしかオーナーの源氏名は光るに輝くでコウキ。しかも三男。

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