ガラクタ♂♀狂想曲
「ショコちゃん」
「……なんとなくなら知ってるけど」
「おい後ろ。コソコソ話すなよ」
「コーキさんがショコちゃんを妹だったらとか言うから、きちんと説明してるだけですよ」
「ゼウスは自分の姉を嫁に貰ったからこそ、偉大な神となれたと思わないか? だけど津川さんは俺より年下だし妹になる。ほら、何かが変わりそうだろ?」
そしてまた、くすりと笑うオーナー。
「源氏名のコーキは、そこから取ったってぐらいだから。ショコちゃん気をつけて」
「そ、そうなの?」
オーナーが話していたのは、男3兄弟の末っ子は自分みたいになるケースが多いという内容だった。私はそれを聞いても、そうなんだとしか思わなかったし、こんな話に繋がらない。
「ゼウスは言い伝えでかなりの女好きなのですが、俺から言わせていただけば、あれは貰った嫁のせいなんですよ。だけどそのおかげで神になれたんだと俺は思います」
呆れた。よくわからないけどスゴイ。
あの部分を聞いたデンちゃんはギリシャ神話のことだと思い、私はそうじゃないと思ったのだから。
つまりデンちゃんが起きていると気づいたオーナーが、私たちどちらにでも通じる話をしていたのだ。
そしてバックミラーの中に映るオーナーは、私に向かってひょこっと小さく肩を上げた。例のクソガキがいるとするならば、それはオーナーかもしれない。そんなことを考える。
「ねえショコちゃん」
そして私の肩へ頭を乗せた鼻声デンちゃん。
熱のせいか目はまだ水の膜が張ったようにトロンとしているけれど顔色はずいぶんよくなっている。
「なんか俺、ハラ減った。出るときに作りかけだったあのおかゆ、まだ食べれるかな」
「帰ったら新しいの作るよ」
「——津川さんのマンションって、確かあそこでよかったですよね?」
「え?」
オーナーが指差すほうを確認すれば、もうマンションは目の前だった。いつも駅までの往復ばかりだった私が使う道とは反対の道から入ってきただけなのに違った景色に見えて新鮮。
「ええはい。ありがとうございます」