ガラクタ♂♀狂想曲
そして車は徐々に速度を緩め、マンション下の側道に停まった。
「お前明日、ちゃんと病院行けよ」
「はーい」
「それから津川さんは、明日サボらないように」
「…はい」
車から降りた私たちは、オーナーに向かい揃って頭を下げる。
それに応えるかのようにプッと短くクラクションが鳴り、ゆるゆると動きはじめた車。そのまま走らせていくのかと思いきや——
「津川さん」
ウィンドウを下ろしたオーナーが、なぜか私を手招いた。思わずデンちゃんと顔を見合わせる。
「すぐ済みます」
ふたたび手招く。
不思議に思いながらも車へ歩み寄った私に対し、オーナーはいつもとなんら変わらない表情で待ち受けていた。
「なんでしょうか?」
「この曲のタイトル知っていますか?」
「え?」
オーナーが流すBGMはクラッシック系のものばかりということは知っている。
「やはりご存知ないですか?」
「え、ええっと」
あまりにも予想外な言葉だったので、まずこの会話に頭がついていかない。子犬のワルツすら出てこない私だ。
「それでは、また明日」
「え?」
呆気に取られ、その場に立ち尽くしたままの私を残し今度は停まらず走り去っていく車。
首を傾げながらデンちゃんの元へ戻れば、同じように不思議そうな顔をして首を傾げ私を覗き込み寒そうに体を抱いていた。
「——ショ、いっくしゅ」
口を開けるなりくしゃみをし、それから背中を丸めて激しく咳き込むデンちゃん。とにかくまずは、この風邪からだ。
「ごめん、お待たせ。早く中に入ろう」
デンちゃんの背中へ手を添え、階段のほうへ足を向ける。
「咳してるうちは、煙草禁止だからね」
「ゴホ、ゴホン」
返事を咳で返し頷いたデンちゃんと、身を寄せ合うように階段を上がった。