ガラクタ♂♀狂想曲
生きモノ
あのオーナーだったら、これぐらいの仕掛けなど容易いことなのかもしれないとは思うけれど——。
そして溜息とともに吐き出された涙は、音もなく静かに頬を伝う。
「……なにがキミの、しあわせ?」
アンパンマンのことを思い出したわけではない。
あのとき子犬のワルツを選んだデンちゃん。
ジュピターを流していたオーナー。
そして私がこの曲へ辿り着いたのは、決まっていたことなのだろうか。
それとも別れ際の言葉がなくとも、いつかはこの曲に辿り着き、こうして涙していたのだろうか。
オーナーの幸せは、一体どこに——。
そしてデンちゃんの傍らへ寄り添い、その寝顔を眺めた。ピクリとも動かないデンちゃん。だけど頬に手をやれば伝わる確かな温もり。
「……起きてたの?」
私の頬へ手が触れ、返事の変わりに口を横に結んだデンちゃんは何も言わず私の頭へ手を伸ばし優しく撫でてくる。
「デンちゃん」
「ん」
するとデンちゃんの腕に少し力が篭り、私はゆっくりその胸に抱え込まれた。
「ショコちゃん」
「———お願い。何も聞かないで」
「聞いてない」
そしてふたたび訪れた静寂を飲み込むように、時がゆっくりと流れはじめる。何も聞かないデンちゃんは、ただ黙って私の頭を撫でる。
そういえばいつだったか、以前もこうしてくれたことがあった。細いクセして寄りかかっても倒れないデンちゃんが、とても逞しく思えた——、そうあれは、ネットに写真をバラ撒かれたとき。
なんか懐かしいな。
あれからなんだか毎日いろいろあり過ぎて、もうずいぶん前のような気がする。