ガラクタ♂♀狂想曲
聞いたところデンちゃんは120日、約4ヶ月の短期留学だったそうだ。
帰国の予定はとっくに過ぎていた。もう過ぎ去った昔のこと。いまは社会人1年生の私。
デンちゃんからは何の音沙汰もない。
「あ、そうだ祥子」
「んー」
「あの指輪、今日付けて行って」
「——なんで?」
「いいから」
そうあれは、あなたがはじめて私にプレゼントしてくれた指輪。一度も嵌めたことがない指輪。
「だけど、ねえ。この指輪ってさあ、本当はあなたが選んだものじゃないでしょ」
「バレた?」
するとふっと微笑み、私の頭を撫でる。
「———だけどさ、きっとコレがないと俺たちははじまってなかった」
あの日、ベッドに私を残したデンちゃんは"じゃあ"と言って扉を閉めた。それはまるでコンビニにでも行くかのように。
"それが一番の答えなんだと、いま気づいた"
はじまりがあんな感じだったのだし、そんなデンちゃんの背中を見送っても実感なんて全然なかった私。たとえあんなことを言われたとしても、またふらりと現れてベルを鳴らすと思っていた。
お気に入りのソファーはあるのだし、デンちゃんの小物もまだたくさん残されていたし。学校もあるし、バイトもあるし。
きっと荷物を取りに来たとかいうベタな理由で、また戻ってくると思っていたのに。
「準備できた?」
「——ねえこの指輪、本当につけなきゃダメ?」
「それが一番似合ってる」
「……意地悪だね」
私がアルバイトから帰ったら、この世にデンちゃんなんて存在していなかったように欠片もなくなっていた部屋。だから本気なんだって思った。
あのとき、ようやくそれを理解した。