ガラクタ♂♀狂想曲
この場に及んでデンちゃんと口にした私。ほんと、どうかしている。
まだ"なにか"を期待していたのだろうか。それとも自分の決断に怖くなった?
「ほら祥子」
「——うん」
はじめてここへ来たときは、ホテルみたいだと思った部屋を出る。
私たちがはじまった——、寂しさを紛らわすためだけに抱かれた、この部屋を。決してこの指輪が、きっかけだったわけではない。
「着いたよ」
その声に辺りを見渡した。じつは今日こんなに正装したのにはわけがある。
食事というと気軽な感じもするけれど桐生さんのご両親に初顔合わせ、しかも足を踏み入れたことなどない有名ホテルで食事するのだと聞いていた。それなのに。
「ねえ」
「降りて」
「———なにここ」
「巣立って行った」
「どういうこと?」
だって今日は——。なのに、どうしてこんなところに。
着いたのは先週オープンした桐生さんのお店。
まだ私はここへ一度も足を運んでいないけれど、話には何度も聞いていたし写真も見たことがある。落ち着いた店内には、一台のピアノが置いてあった。
「どういうこと?」
「はじめて見るだろ?」
「そうだけど、もう時間が。それに今日はじめてお会いするのに遅刻したらどうするの」
どうしてそんな日に、わざわざここへ。
「俺も任せっきりでオープンしてから足を運ぶのはじめてだったりするから顔見せ」
「だけど、それがどうしていまなの。明日でも来週でもいいじゃない」
「いつか必ずここへ来るなら俺は今日がいい。それが選択の自由」
「——だけど…」
「降りるか降りないかは、祥子の自由だ」
「なにそれ」