ガラクタ♂♀狂想曲

そして桐生さんは煙草を取り出し火をつけた。

降りるか、降りないないか、早く答えないと。それでなくとも時間は押していた。


「元アルバイトだった私と一緒に行ったら、スタッフの人に変な目で見られる」

「店からの移動はチーフだけだから、祥子が元アルバイトだなんてみんな知らない。それに俺もここの新規スタッフとは、まだ顔を合わせていないから大丈夫」

「……」


どうして。
なぜ今日なの。


「降りない?」


首を傾げ私を覗き込んだ桐生さんは視線を落としフッと微笑んだ。思わず黙り込んでしまう。無意識に指輪を触っていた。


「それ気に入った?」


ふわっと煙を吐き出しながらそう言う桐生さん。


「なんだかこれ、オモチャみたいだから気になって」

「オモチャって」

「——あ、そういうつもりじゃないけど」

「じゃあ、どういうつもり?」

「……可愛いなって」


深紅の石が4つ、それが花びらの形をした可愛いリング。デンちゃんが選びそうな感じ。


「その石はガーネット。そういうデザインだから軽く見えるけど、ダイヤモンドと一緒に発見されることも多い立派な天然石」

「…そうなんだ」


ガーネット。なにか意味があるのだろうか。

だけどこれをもらう前にデンちゃんはいなくなったのだし、手渡されたのは桐生さん。意味など考えても仕方ない。


「ガーネットは1月の誕生石だから、それは自分の誕生日に祥子へプレゼントするつもりだったんじゃないかな」


だからどうして、いまさらそんなこと。

< 288 / 333 >

この作品をシェア

pagetop