ガラクタ♂♀狂想曲
「——誰のこと言ってるの」
「わかってるくせに」
そしてロックを外した桐生さん。
「仕組んでいたことなの?」
「違う」
「だって、なんで?」
「俺があいつとずっと連絡取り合ってると思ってるみたいだけど、こっちに帰ってるのも知らなかった。採用したスタッフの履歴書見て知っただけ」
「——そんなの嘘だわ」
「本当」
旅立つデンちゃんを見送ったのは桐生さん。帰国後連絡を取り合っていないだなんて、そんなの考えられない。
「帰ってきてから、まだ俺も会っていない。あいつもまさかここが俺の店だとは気づいていないだろうし」
「考えられない」
すると短くなった煙草を灰皿に押し付けた桐生さん。
「祥子がいるからこそ、俺と隼人の縁は切れなかったと思う。だからこんな素敵な再会になった」
私が桐生さんにはじめて抱かれたあの日。寂しさを紛らわしたつもりでも余計に寂しくなった、あの日。
だけど、寄り添わずにいられなかったあの日。
言ってみればただ体を重ねあうだけの行為なのに、それほど人肌が恋しくなってしまい求め合った、そんな夜。あれから抱かれたのは数回しかないけれど、寂しいのを埋め尽くしてくれたのは桐生さん。
どこかデンちゃんを感じる桐生さんを断ち切れず、甘えてしまった私。
「——どうする? だけどあのとき俺に抱かれることを願ったのなら、いつかこういうこともあるんじゃないかと期待していたはず」
「いま、そんなこと言わないで」
「俺は隼人を送り出してくれた祥子に感謝している。またこうやってピアノが聴けるとは思わなかったしね」
「勝手に出て行ったのに…っ」
送り出してなどいない。もう会うつもりもないといったのはデンちゃんだ。