ガラクタ♂♀狂想曲
そして携帯を切り、窓の外へ目を移す。
見慣れない景色。
以前住んでいた場所は引き払っていたので、いま住んでいるのは親父と瑠美が住む一軒家。
瑠美のお腹には、ふたたび新たな生命が宿り、あと一か月もすれば生まれてくる。つまり僕の——
「名前決めたの?」
「まだだよ」
「僕が決めてあげようか?」
この1年半のあいだで、僕の身になにが起こったか。
わりと長かった髪をバッサリと切り落とし坊主に近い姿で日本を発ったものの、切ったことをすぐに悔やんだあの日。だって寒くてね、頭がね。
「ララちゃんてどう?」
僕の言葉にふっと表情を緩ませ、大きなお腹を撫でる瑠美は晩御飯の支度中。
「手伝おうか?」
「いいよ」
「そ?無理しないでね」
行先はウィーンだった。いつか行ってみたいと思っていたのもあって、ちょくちょく調べてはいたけれど、そこまで必死に調べていたわけでもなく。
だけど下心もちょっぴりあったのかな。
すべてを捨てて行ったけれど、行先は光輝さんには伝えていたのだし。
でもって降り立った瞬間、また髪を切ったことを後悔しちゃったからね。ほんと寒くてね。風邪引いてたしね。
「ねえねえ瑠美。ララちゃんとリリちゃん。なんかよくない?」
リリちゃんっていうのは、かあさんのところに生まれた赤ちゃんの名前で、つまり僕の妹なわけなんだけれど。名付けたのは、この僕。
なんの因果か。その地にかあさんが住んでいることなんて、まったく知らずに足を踏み入れたのにも関わらず、親子揃って逃げた場所がそこだったわけで。血とは恐ろしいものだなあと。
なんだかんだあって、かあさんと見知らぬ土地ウィーンの空の下で、少しのあいだ一緒に暮らした僕は、そこでいろいろ学び。
滞在中に生まれたリリちゃんはハーフの可愛い女の子。目に入れても痛くないという言葉があるけれど、そこまでではない。だって目には入らないし。