ガラクタ♂♀狂想曲
音楽大学どころか大学も出ていない僕が、わざわざ日本からはるばるやってきた奏者に質問攻めになったこともあったり。
だけど僕は堅苦しいのは苦手かな。
楽譜は読めないことはないけれど、耳から聴いたのをあれこれしながら弾いていくのが好き。
『気が変わったらまた連絡くれよ。こっちは大歓迎だ』
ありがとうございますとしめくくり、電話を切った引っ張りダコの僕。参っちゃうね。
「さあてと。僕、ちょっとピアノ弾こうかな」
いま僕がここに居候しているのは、ピアノがあるから。もともとマンションに住んでいた親父だったけれど、産まれてくる赤ちゃんのために、きちんと籍を入れ一軒家を建てた。
なぜか驚くことにピアノが置いてある。
なんと学校を辞め、なにもかも捨て逃げた僕を、親父はとくに責めなかったのだ。いまでも会話はほとんどしないけれど。
ほんとうは僕みたいに自由にいきたいひとなんだろうなあ、とか。だから僕みたいな中途半端な姿が許せなかったんだろうなあ、とか。
直接本人に聞いてないからわからないけれど、そんな感じで僕は思っている。顔を合わせても以前のようになることはない。
親父が変わったのか。
僕が変わったのか。
時間が経ったことを、親父の顔を見るたび実感する。
「なに弾こうかなあ」
「ほんとピアノ好きね」
「お腹の中にいる、僕の妹に聴かせてあげんの」
ゆっくりと息を吸い込み、目を閉じてみる。
鍵盤に手を乗せれば、頭の中には穏やかなメロディーが絶え間なく。
「……」
僕は、帰ってきたよ。
「――よし」
ショコちゃん。
待っててね。