ガラクタ♂♀狂想曲
side 祥子
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「いらっしゃいませ。お客様、お二人様でいらっしゃいますか?」
「ええ」
「お煙草はお吸いでしょうか」
入り口で待ち構えていた店員は桐生さんが言ったように、普通の客と同じように応対してきた。
「同席のものが目立たない席がいいそうですので、そちらに案内してください」
「——はい?」
「冗談です。吸います」
くくっと楽しそうに笑いを堪えるようにそう言った桐生さん。
「だからバレないって言っただろ」
声を落とし、耳打ちする。
「ちょうど、これぐらいの時間から演奏。タイミングも謀ったようにバッチリ」
「——これは謀ったのでしょ」
優しく落ち着いた音色が響く店内。
「ご案内いたします」
入り口付近からは、その音色だけが聞こえた。だけど情けなくも、足が全く動いてくれない。
「さ、行きましょう。あいつがこういった偶然を狙ってないのなら、こっちにいる理由がありません。地元に戻ってるはずです」
すると私の肩を抱いた桐生さんは急に敬語でそう言って足を進めた。
「——普通に喋ってよ」
ただでさえドキドキするのに。
「わかりました」
「——もう」
店員の少し後ろを歩いた。顔が上げられない。
それぞれのテーブルについているお客さんたちの会話は、どれもひそひそ声に聞こえ、ときどきチラチラとピアノのほうへ目を向けている。その視線の先に、きっとデンちゃんが。
見たくないのか、見たいのかわからない。決して見られているわけではないのに緊張して足が縺れてしまいそう。