ガラクタ♂♀狂想曲
1年半ぶりだよ。
久しぶり、デンちゃん。
「いま難しいところ。これは告別という曲名だけど、告別・不在・再会と3楽章に分かれてる。最初の告別だけ聞くと永遠の別れを想定してしまうけれど、最終章の再会は喜びに満ち溢れてる」
そして店員と何か言葉を交わした桐生さん。
だけどデンちゃん。見た感じ全然変わっていない。
ううん、変わったのかも。ピアノを弾くデンちゃんなんて、はじめて見たもの。
そうやって少し口元を緩ませるように、余裕しゃくしゃくで幸せそうに。とても優雅にピアノを弾くんだね。
「最終楽章まで、もう少しある」
どうやら注文を済ませたていたらしい桐生さん。私が放心しているあいだに、テーブルへ美味しそうな食べ物が並んでいた。
「——惚れ直すでしょ?」
「……」
「こういうの、俺も好きです」
それからしばらくして入った最終楽章で、だんだん視界が滲んでくる。
だって、ありえない。こんなドラマみたいなこと。
「———デンちゃんは私のこと、覚えてくれてるかな」
あれからもう1年半だ。私たちが一緒だった期間なんて、それに比べてほんの少し。
「さあ? 俺に聞かれても」
もしかするとデンちゃんにとったら、それほど大したことない過ぎ去った日々なのかも、と思ってしまう。
私たちが一緒に過ごしたのは、それぐらい本当に短い期間だった。
だからいまこんなふうに別人にも見えるデンちゃんが、とても眩しいよ。
「——今日から、こちらでピアノを弾かせていただくことになりました……、デンです。またのご来店を心より、お待ちしております」
ばか。
立ち上がり挨拶を済ませたデンちゃんが一礼すると、ピアノリサイタルでもないのにパラパラと拍手が上がる。
それに応えるように何度か小さく頭を下げるデンちゃんは、最後にこちらを向いて深く一礼した。