ガラクタ♂♀狂想曲
で、ボロボロな顔のまま一瞬見せたショコちゃんの笑顔に吸い寄せられてしまった僕は、我慢できずやってしまった…。いやらしいことを…っっっ!
「……」
あーーー、やばいニヤける。
演奏中なのにっっ!
それから名前を聞かれた僕は、本名を名乗らずデンと呼んでほしいといった。なんでそういったのかわからない。
だけどいまこうして改めて考えてみれば、東京に出てきて一度も呼ばれなくなった「あだ名」を、誰かに呼んでもらいたかったのかな。
ショコちゃんはお酒が入っていたし、次の日になって僕のことを覚えてなかったら大変だと思い、日が変わるまで一緒にいた。
あのとき、一度も瑠美のことは思い出さなくて。だけど、そのとき、それには気づくことができなかった僕。
ほんとバカだ。
いま思うと、あれこれ相談しつつ、それを口実に会いにいっていたんだろうなって。わかるのに。ダメダメなデンちゃん。
瑠美のことを好きだと思っていた過去の僕に教えてあげたい。
会いたくなるのも、抱きたくて仕方ないことも、キスしたくなるのも、胸が痛いのも、それはショコちゃんに恋をしているからだよって。いまの僕なら、わかるのにな。
だけど…っっ!
それがあったからこそ、いまの僕がいるわけで。あのままズルズルふたりで溺れていたらダメなんだと。ショコちゃんは教えてくれた。
エッチさせてくれなくなったしね。
「……」
そして、ふたりが座るテーブルに目を移す。光輝さんとショコちゃん。
「ぁ……、」
いま少し、ショコちゃんと目があった。楽しんでくれてるかな。
「ふふ」
どう僕のピアノ。すごいでしょ。
約束おぼえてるかな?
はやく聴かせてあげたくて。
いや、聴いてほしかった。
やっとこの日がきたんだ。
きょうは、胸を張って伝えるよ。
キミが好きだって。