ガラクタ♂♀狂想曲

「楽しんでもらえた?」


な。


「た、た、楽しいわけ、ないでしょ!!?」


我ながら可愛くない反応だと思う。だけどどんな顔をしていいのかわからない。顔を上げ睨みつけるようにそう言うと、そのままじっと私の目を見てくるデンちゃん。1年半ぶりの。



"お友だちになってくれませんか"



そして思い出した、デンちゃんとはじめて言葉を交わした日。あのときのデンちゃんは、私のことをこんな顔で見てきたような気がする。


「デンちゃん」

「俺はショコちゃんが好き」

「——なに、言って」

「ショコちゃんだけを、ずっと特別に好きでいると伝える自信ができたから言ってる」


視線を離さないデンちゃん。


「……いま思いついたの?」

「ショコちゃんが誰を好きでも、誰を選んだとしても、俺のことが嫌いだとしても、これは変わらない」

「いま考えてるでしょ」

「忘れないで」

「———なによ…、それ」

「好きだ」


もう会うつもりもないって言ったくせに、よくもまあこんなことをサラッと。

それに瑠美はどうしたのよ。どうなったの。

デンちゃんがいなくなってからの桐生さんは、私の前で瑠美のルの字も出したことがなかったんだから。

それに普通こういう場合は、先に"久しぶり"とか、"元気だった"とか"ごめん"とか、ピアノのこととか…。ほかにもたくさん。

それなのに、そんな簡単なひとことで片付けちゃうの。


「———ずるいよデンちゃん」

「これまでのこと、あの日のことは謝るつもりもない。それに例え今日という日がなかったとしても、俺はショコちゃんが好き。いま目の前にいるから伝えた。それだけ」


なによそれ。


「……嫌い」

「でも俺は、好き」

「バカ」

「でも好き」


デンちゃん。ほんとにデンちゃん? あの?
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